「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンのひとつ、EARTH MART を、テーマ事業プロデューサーのひとりである小山 薫堂さんと共にデザインした。今回の大阪・関西万博では、パビリオンは木を使って、「いのち」を表現しようとするパビリオンが多かったが、われわれは木からさらに一歩踏み込んで、日本の森の自然循環にとって、木よりもさらに重要な役割をはたしていたともいわれる「茅(thatch)」を材料としてこの建築をデザインした。
茅はススキやヨシなどの植物の茎を干したもので、茅で屋根を葺くことは、第二次大戦以前の日本の民家では、最も一般的な工法であり、紀元前13世紀に始まるともいわれる縄文時代の民家の屋根では、長い間ずっと茅で葺かれ、日本人は3000年以上茅の下で、茅に守られて生活し続けてきたともいえる。さらに茅は集落の背後の森(里山と呼ばれる)の自然循環の主役であり、茅によって、里山の生物多様性は守られてきたといわれている。その意味で茅は、サステナブルな日本人の生活スタイルの中心に位置する極めて重要な物質であるといっても過言ではない。
しかし第二次大戦後、住宅の屋根から急激に茅は失われ、現代では茅葺で家を作りたいと思っても、茅葺き職人を探すこと自体がきわめて困難という残念な状況になっている。その状況に一石を投じ、里山の自然破壊をもう一度取り戻すために行動を開始したいというのが、このパビリオンに込めた思いであった。
国立競技場(2019)が47都道府県の木材を用いて日本という自然の豊かさと多様性を示したように、茅は全国5か所からのススキとヨシを用いた。葺き方は以前、梼原町の まちの駅「ゆすはら」(2010)で試みたのと同じように、茅をブロック状にして葺きを重ね、万博会期後のリサイクルが容易なディテールとした。茅の屋根は、縄文時代以来、肥料、飼料としてリサイクルされ続けてきたので、そのサステナブルな知恵を、この茅のブロック積みで世界に伝えようと考えた。
実施設計:大成建設・隈研吾建築都市設計事務所
テーマ事業プロデューサー:小山 薫堂
全体統括:オレンジ・アンド・パートナーズ
実施製作・運営:電通、電通ライブ
展示製作:乃村工藝社
映像演出:SPECIAL REQUEST
アートディレクション:Tamotsu Yagi Design
チーム 岡山 直樹、平井 未央、工藤 浩平*、西田 安里、金子 史弥 (CG) 施工 大成建設 構造 構造計画研究所 設備 森村設計 積算 二葉積算 パブリケーション 日経アーキテクチュア 2025/1/23 No.1280 、新建築 2023/10 、新建築 2023/10 、日経アーキテクチュア 2023/06/08 No.1241 、日経アーキテクチュア 2022/08/25 No.1222 、日経アーキテクチュア 2022/08/11 No.1221 、日経アーキテクチュア 2022/05/26 No.1216 、日経アーキテクチュア 2022/05/26 No.1216 、新建築 2022/05 写真撮影 ©︎ Katsumasa Tanaka
